書評:ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実(著:フリーク ヴァーミューレン 翻訳:山形佳史 本木隆一郎)

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ヤバい経営学―世界のビジネスで行われている不都合な真実

タイトルは”釣り”でしょう。内容を反映したタイトルにするなら、「統計に見る経営学の嘘と真実」みたいな感じでしょうか。”マジメ”に経営学を学ぼうとしている人には向きません。というかその経営学をシニカルに扱っているのが本書です。逆に世にあふれる様々な経営学、手法に辟易している人が読むと良いでしょう。

先に目次(大見出しのみ)を引用します。小見出しの方が興味を引くものが多いのですが、数が多いので割愛します・・・

Introduction:モンキーストーリー
第一章:今、経営で起きていること
第二章:成功の罠(とそこからの脱出方法)
第三章:登りつめたい衝動
第四章:英雄と悪党
第五章:仲間意識と影響力
第六章:経営にまつわる神話
第七章:暗闇の中での歩き方
第八章:目に見えるものと目に見えないもの
Epilogue:裸の王様

著者についてはAmazonより引用します。

著者について
フリーク・ヴァーミューレン
ロンドン・ビジネススクール准教授
オランダ・ユトレヒト大学で組織論、ティルブルフ大学で経営管理の博士号を取得。専門は戦略論とアントレプレナーシップで、主にMBAとエグゼクティブMBAプログラムで教鞭をとっている。東芝、BP、フィアット、IBM、KPMG、ノバルティス、ボーダフォンなど、大企業の経営層のアドバイザーを務めるとともに、一般紙・専門誌への寄稿多数。Academy of Management Journalの最優秀論文賞を受賞、現在は同誌を含めた経営ジャーナル4誌の編集委員を務める。ロンドン・ビジネススクールでは、ベストティーチャー賞と最優秀授業賞を受賞。『フィナンシャル・タイムズ』紙上で「ライジングスター」と称される。本書は英語・日本語の他に中・韓・露・蘭の4カ国語でも出版されている。

あくまでも当事者(経営者)ではないトコロが、逆に客観的かつシニカルな分析を可能にしているのかもしれませんね。

カンタンにまとめると、「経営者だって感情に左右される普通の人間だよ」「今流行りの経営手法が将来も有効かどうかは分からないよ」「成功の原因なんて後付けで、はじめから計画的に作られたものじゃないよ」「会社の価値、特に株価なんてアナリストの利害関係や感情で決まっちゃうよ」・・・などなど、冗談を加えて軽妙な語り口で解説されています。慣れてきちゃうと冗長に感じる部分もあるかもしれませんが、全体としては読みやすく面白いです。著者自身の分析だけではなく他の学者の研究結果も踏まえ、会社経営・経済活動の真実を浮き彫りにします。

「昔こんなのが流行ってたけど、今はどうなの?」とか「一時期この会社は有名だったけど最近はどうなの?」とか「この経営手法って今の時代に合わないんじゃない?」などの疑問があれば本書はそのヒントになると思います。

あくまでも統計的に「(ほぼ)こういうことが言える、当てはまる」ということです。本書では経営にまつわる様々な現象の嘘ホントを浮き彫りにしてくれますが、これを読んだからといって将来が保証されるというわけではありません。そもそも「これさえあれば(やっていれば)未来永劫安心」なんていうのは幻想でしかありませんし、著者もそんなつもりで書いているわけではないでしょう。

印象に残ったところをいくつか抜粋すると・・・

「今日の変化の早いビジネスの世界では・・・」「ますます激しくなる超競争時代」「ビジネスの世界はますます変化が多くなっている」…etc などと当たり前のように言われているけどこれは嘘。競争環境は全く何も変わってはいない。これは5,700社について過去20年以上の業績を分析した結果らしいです。言われてみれば確かにそうです。人類の歴史を振り返ってみれば、コンピューターやインターネットの急速な広まりとか産業革命とか電気の発明とか、そのような衝撃と比べてしまうとむしろ変化なんてほとんど無いように思えます。

“イノベーション”はよく英雄視されているし実際素晴らしいものですが、実は「イノベーションを起こす会社は早く死ぬ。ほとんど例外なく」が統計結果。結論として「イノベーションを目指すべきではない。そうすれば、イノベーションを起こす人よりもリスクを取らずに高いリターンを得られる」としています。このへんはやはり”バカ(良い意味で)”じゃないと突破できない壁がどこかしら存在していて、突破できなかった多くの人や会社の犠牲の上で初めて”イノベーション”が起こるものだと実感します。

元々著者がブログで書いていたものをまとめたのが本書らしいです。上述のようなトピックをカテゴリごとにまとめたわけですね。なのでビジネス書のようにあるテーマについて結論を述べるというわけではありません。一つ一つを短い読み物として読むと良いでしょう。頭でっかちでマジメな人ほど、頭を柔らかくするために読むのもオススメですね。

[milliard]
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