書評:会社を変える分析の力 (著:河本薫)

公開日:  最終更新日:2014/07/24

統計学がブームである。
ビジネス系の書籍やニュースでも「ビックデータ」とか「データサイエンティスト」という言葉を頻繁に見るようになった。
ブームの先駆け的な書籍で言えば「 統計学が最強の学問である (著:西内 啓)」が有名である。こちらは未読。

背景を簡単に言うと、IT技術の進化で情報収集が容易になり情報量が膨大になった(=ビックデータ)のはいいけど、今度はそれを経営にどう活かすかが問題となっている。データをいくら集めたところでそれを意思決定に使えなければ無駄に終わってしまう。そこで優秀な「分析者(=データサイエンティスト)」が必要になったということ。
その分析者はどこにいるかと言えば、分析専門でコンサルや人材派遣をしている企業にいたり、社内で分析部門に所属していたり。最近では企業が公募してフリーの分析者が応募するようなサービスもある。

著者は 大阪ガス(株)情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長。民間企業内の分析専門事業部である。この立場で書かれた書籍は珍しいらしい。
統計学の本というと、いかにも細かい分析手法や事例が書かれたものを想像してしまうが、本書には当てはまらない。
著者は「データサイエンティスト」という言葉を使わず、代わりに「分析スペシャリスト」と 「分析プロフェッショナル」という言葉を使う。著者が理想とする分析者像は後者である。前者は分析の専門家、後者はそれを報酬に変えることのできる人としている。
この本は「理想の分析者とはどういう人物であるべきか」を説いている本である。なのでこの本が一般的な統計学の本かと言われるとそうとは言えないかもしれない。
しかし統計学の本を読む前に読むべき本だと思う。

分析者とかデータサイエンティストとか聞くと、一般的には上述の「スペシャリスト」のイメージが先行するのではないだろうか?
分析者にありがちな間違いは「依頼された分析の背景を考えず」「与えられたデータだけで」「如何に高度な手法」で分析するかに終始してしまうことだと言う。
実際に役立つ分析をするためには、現場に足を運び、声を拾い、適切なデータを集め、適切な手法(必ずしも高度である必要はない)で分析をし、どう意思決定に活かせるかを考えなければならない。従ってときには依頼されたものとは異なる分析を行う必要もあるということだ。
また、予測はあくまで予測にしか過ぎないという意識も大事である。市場の変化など外的要因によって状況はいつでも変わる可能性がある。所謂現場の「勘」が必要になることは十分にあり、分析結果の予測だけで成り立つわけではないのだ。

専門家の方が書かれた本なので、もっと「分析至上主義」的なものかと考えていたけれど、専門家だからこそ逆にこのようなことが言えるのだと思う。
「ビックデータ」まで使うことのない零細企業でも、社内アナリストや経営に関わる立場の人間ならば読んでおいて損は無いと思う。
難しい分析手法を覚えたり、新しく高価な分析ツールを導入するより前に、少なくともまず基本的な考え方を学ぶ方が先決であろう。

[milliard]
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