書評:初音ミクはなぜ世界を変えたのか?(著:柴那典)
誤解を恐れずに言えば、「初音ミクは所謂オタクだけのものではない」ということがよく分かる本です。今でこそ様々な企業とコラボして一般的にその名前だけは認知されているけれど、「VOCALOID(音声合成ソフトウェア)」という技術も知らなければただの「萌えキャラ」ぐらいの認識しかないだろう。「どうやら歌をたくさん出しているらしい」ぐらいの認識はあるかもしれないけれど、その程度の認識しか持たない人からすれば「バーチャルアイドルが3DCGでライブやってて、そこで熱狂している観客たちがいる(※例えばミクパ♪など)」なんてことは全くもって理解不能だろう。
参考:(YouYube):Hatsune Miku Live Party 2013 in Kansai [720p](3時間23分)▼▼▼
※これWOWWOWで放送されたものらしいけど公開してていいのかな?
一応説明すると「初音ミク」とは単なるDTM(デスクトップミュージック)用のボーカル音源に過ぎない。
初音 ミク(はつね ミク、HATSUNE MIKU)は、札幌市に本社を置くクリプトン・フューチャー・メディアから発売されている音声合成・デスクトップミュージック(DTM)用のボーカル音源、およびそのキャラクターである。
ヤマハの開発した音声合成システム「VOCALOID」に対応したボーカル音源で、メロディや歌詞の入力により合成音声によるボーカルパートやバックコーラスを作成することができる。また、声に身体を与えることでより声にリアリティを増すという観点から女性のバーチャルアイドルのキャラクターが設定されている。
発売元のクリプトン・フューチャー・メディアによれば、「3枚のイラストと、『年齢16歳、身長158cm、体重42kg、得意なジャンルはアイドルポップスとダンス系ポップス』というシンプルな設定のみ(※本文より引用)」である。たったこれだけの設定で今のように様々な楽曲やイラストなど創作物や、コラボ商品が生まれるとは当時は思ってもみなかったのではないだろうか。
初音ミク(あるいはボカロ)に関するキャラクター本は数あれど、本書のように”音楽史”の観点から初音ミクという”現象”を紐解いている本は貴重(著者は音楽ジャーナリスト)。初音ミク肯定派が否定派に対して言いたいことはこの本に全部書いてあります。僕自身は曲やイラストなどの作品を作っているわけではないので、当事者からすればまた別の感想を持つかもしれませんが。もし周りに理解してくれる人が少ない(或いはいないかもしれない)ならばぜひこの本を薦めましょう。
※でも多分そういう人は読まない。否定すること自体が目的だから。
音楽史の知識などなくても十分楽しめます。まさか「初音ミク」を紐解くのに1967年のサマー・オブ・ラブまで遡るとは思いませんでしたし、この言葉自体初めて知りました。もちろん直接関係があるわけではなく、音楽史として見た場合にその現象が類似しているという著者の考えに過ぎませんが、この観点は非常に興味深いです。サマー・オブ・ラブの背景から、近代の音楽市場や、DTMの進化、ネット上での創作活動にはどのような流れがあって、それらがどのように初音ミク現象・ムーブメントの土台となっていったのかが順を追って詳しく解説されています。
逆に言うと、初音ミクを萌えキャラとしてしか見ない人にはオススメできません。本書にはイラストなど皆無です。楽曲作ったりしないけどボカロPのファンならば楽しめます。ムーブメントの背景とともにボカロPが生まれた背景についても解説されています。本書で紹介されているボカロPは有名な方ばかりだし、知らなければ一度聞いてみることをオススメします。kz(livetune)さんの「Tell Your World」なんかは「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”」のCMソングとして流れていたので、知らない人でも聞いたことがあるかもしれませんね。
上で紹介したミクパなんか見ていると技術の進化もそうですが、楽曲・イラスト・CG・イベントなど様々な分野で素晴らしいクリエーターがたくさんいることに驚かされます。そのようなクリエーターの方々の背景を知ることでより好きになるでしょうし、これがきっかけでクリエーターを目指す人も出てくるかもしれません。
願わくば、”誤解”している人ほど読んで欲しい一冊です。